福岡における製造業の採用環境は、ここ数年で大きく変わりつつあります。
半導体関連の大手企業が福岡市内にソフトウェア開発拠点を開設したり、自動車関連メーカーが九州での採用を強化したりと、技術者を求める企業の動きは活発化しています。
こうした動きの影響は、大手企業だけにとどまりません。
福岡に根差して事業を展開する中堅・中小メーカーにとっても、採用の前提が変わり始めていることを意識しておきたいところです。
この記事では、福岡の中堅・中小メーカーが中途採用で意識しておきたいポイントについて、人材紹介や採用支援の現場で感じていることをもとに整理してみます。
福岡でも技術者採用の競争環境は変わってきている
福岡は、生活環境の良さや都市としての利便性から、エンジニアにとって魅力的な勤務地のひとつです。九州大学や九州工業大学をはじめとする理工系の大学・専門学校も多く、技術者の供給力がある地域でもあります。
しかし、その分だけ企業側の採用ニーズも集中しやすくなっています。
関東圏の大手メーカーや半導体企業が福岡に新拠点を設けるケースが増え、これまで以上に技術者の取り合いが起きやすい環境になっています。加えて、スタートアップやコンサルティングファーム、SIerなどもエンジニア採用を強化しており、候補者の選択肢は以前より広がっています。(特にソフトウェア系のエンジニアは顕著です)
福岡の中堅・中小メーカーにとって、これは脅威である一方、チャンスでもあります。競合が増えているということは、「福岡で働きたい」と考える人材の流入も増えているということ。大手にはない自社ならではの魅力をきちんと伝えることができれば、採用の可能性は十分にあります。
給与水準の見直しは避けて通れない
採用市場の変化に伴い、福岡でも技術者の給与水準は上昇傾向にあります。
九州電力、福岡銀行、西鉄、JR九州などの七社会に代表される福岡の主要企業群も、近年は給与水準を引き上げる動きを見せています。こうした大手企業の動きは、地域全体の給与相場に影響を与えます。七社会クラスの企業が待遇を引き上げれば、その周辺にいる中堅・中小企業にも、給与面での見直しが求められるようになります。
弊社が採用支援の現場で感じている感覚値をお伝えすると、40歳前後の製造業/メーカーエンジニアであれば、年収700万円程度は提示しないと、優秀な方には選んでもらいにくくなっています。マネージャークラスで首都圏から採用したい場合は、最低でも800万〜900万円、できれば1,000万円。ソフトウェアエンジニアについても、年収1,000万円に近い水準で採用を行うケースが出てきています。
「数年前はこの水準で採用できていた」という感覚のまま採用に臨むと、候補者に選ばれにくくなるリスクがあります。
すべての大手と同じ給与を提示する必要はありませんし、できないと思いますが、自社の提示水準が市場の中でどの位置にあるのか、客観的に把握しておくことが採用活動の出発点になります。
大手にはない「中堅・中小メーカーならではの魅力」を整理する
給与面で大手に正面から張り合うことは、現実的ではないかもしれません。
しかし、採用活動において待遇だけがすべてではありません。
中堅・中小メーカーには、大手にはない魅力があります。
たとえば、裁量の大きさ。大手では一つの工程の一部を担当することが多いのに対し、中堅・中小メーカーでは構想から量産まで一貫して関われることがよくあります。経営層との距離が近く、自分の提案が形になりやすい環境もあるでしょう。
転勤がない、あるいは少ないという点も、福岡で長く暮らしたいと考える方にとっては大きな魅力です。
最近は「転勤なし」を転職条件の上位に挙げる方が増えており、地場の中堅・中小メーカーが持つこの強みは、以前よりも候補者に響きやすくなっています。
ただし、こうした魅力は、求人票や面接のなかで明確に伝えなければ、候補者には届きません。社内では当たり前になっていることでも、外から見れば大きな差別化要因になり得ます。
自社の魅力を「候補者目線」で棚卸しをして、求人票や採用HPに落とし込むこと。
これが採用力を高める第一歩です。
採用HPの情報発信で「候補者の志望動機」が変わった事例
弊社が採用支援に携わった事例をひとつご紹介します。
ある従業員200名規模の精密機器メーカーでは、採用がなかなか思うように進まない時期がありました。
求人は出しているものの、応募数が伸びない。
面接に来ても、候補者の志望動機が表面的で、自社への理解が浅いと感じることが多かったそうです。
そこで取り組んだのが、採用HPの充実と、人材紹介会社とのコミュニケーション強化でした。
まず採用HPに、会社説明資料をそのまま掲載し、社員インタビュー記事を追加しました。若手社員が責任あるポジションに抜擢されている事例や、福利厚生の具体的な内容も掲載するようにしました。
同時に、有力なエージェントとの定例ミーティングを設け、コミュニケーションの頻度を上げました。
現場の責任者がエージェントと直接話す場を作り、求人票には書ききれない職場の雰囲気や仕事のやりがいを伝えていきました。
結果として変わったのは、エージェント経由の紹介数、そして候補者の「志望動機の質」でした。
面接に来る候補者が、採用HPの社員インタビューを読んだうえで「こういう環境で働きたいと思った」と話すようになったのです。自社の特徴を理解したうえでの応募が増えたことで、選考の精度も上がり、結果的に採用成功につながりました。
大きなコストをかけなくても、情報の出し方を工夫するだけで採用は変わり得る。
この事例は、それを示しています。
「とりあえずエージェントに頼めばいい」では採用は進まない
採用支援、人材紹介の現場にいて強く感じるのは、経営者や採用責任者が本気で採用に向き合っている会社とそうでない会社では、成果に明らかな差が出るということです。
「とりあえずエージェントに求人を出しておけば、良い人を紹介してくれるだろう」「ハローワークに出しておけば無料で採用できるだろう」「とにかく採用費用はかけたくない」。こうした姿勢のままでは、残念ながら今の採用市場では苦しくなります。
エージェントはあくまで採用を支援する存在であり、企業の代わりに魅力を作り出すことはできません。エージェントにとっても、経営層が採用に本気で、情報提供に協力的で、選考のスピードも速い企業には、優先的に良い候補者を紹介したくなるのが正直なところです。
「人が採れないから事業を拡大できない」という声をいただくことがありますが、順序としては逆ではないでしょうか。
採用を経営課題として本気で取り組むことが、事業拡大の前提条件になりつつあります。
採用チャネルの組み合わせを見直す
福岡の中堅・中小メーカーの場合、採用手法がハローワークや求人広告に偏っているケースもまだ多くあります。もちろんこれらの手法が有効な場面はありますが、即戦力となる30代・40代のエンジニアを採用するには、それだけでは十分でないことが増えてきました。
ダイレクトリクルーティング(スカウト媒体)や人材紹介会社の活用、リファラル採用など、複数のチャネルを組み合わせて母集団を形成していく発想が求められています。
特に人材紹介会社については、大手だけでなく、地域や業界に精通した中小のエージェントも併用することをお勧めします。
福岡の労働市場や生活環境を熟知したエージェントであれば、候補者に対して「福岡で働くこと」の具体的なイメージを伝えられます。UIターン希望者への対応にも慣れているため、家族帯同の相談や住環境の不安解消まで含めたサポートが可能です。
自社のSNSやWebサイトで技術的な取り組みや社員の声を発信していくことも、中長期的な採用ブランディングにつながります。すぐに成果が出る施策ではありませんが、「この会社、面白そうだ」と思ってもらえる接点を増やしておくことは、確実にプラスに働きます。
選考プロセスのスピードと丁寧さの両立
採用競争が激しくなるなかで、選考のスピードは見落とせない要素です。
候補者は複数の企業と同時に選考を進めていることがほとんどです。書類選考の結果連絡が遅い、面接日程の調整に時間がかかる。それだけで候補者の意欲が下がってしまうことがあります。
中堅・中小企業では、面接官のスケジュール調整に時間がかかったり、役員面接の設定に1〜2週間空いてしまうケースが結構あります。競合他社が先に内定を出してしまえば、どれだけ魅力的な会社であっても、候補者の選択肢から外れてしまいます。
一方で、スピードだけを追い求めるのも望ましくありません。候補者の経験やキャリア観をしっかり理解し、自社の仕事内容や将来のビジョンを丁寧に伝える姿勢は、候補者からの信頼につながります。「この会社は自分のことをちゃんと見てくれている」と感じてもらえるかどうかは、最終的な意思決定に大きく影響します。
スピードと丁寧さの両立。この二つを意識した選考プロセスの設計が、採用の成否を分けるポイントの一つです。
入社後の定着まで見据える
採用がゴールではありません。入社後に定着し、活躍してもらってこそ、採用は成功と言えます。
中途入社者は、新卒以上に「入社後のギャップ」を感じやすい傾向があります。面接で聞いていた話と実際の業務が違う、社風が合わない、期待していたポジションとは異なる。こうした声は、弊社にもよく届きます。
ミスマッチを防ぐためには、選考段階での情報提供の透明性がカギになります。良い面だけを伝えるのではなく、課題や大変な部分も含めて率直に共有すること。それが、結果的にミスマッチの防止と長期的な定着につながります。
入社後のオンボーディングや、評価制度・キャリアパスの明示も大きな要素です。中堅・中小企業では、こうした仕組みがまだ整っていないケースも見受けられます。完璧である必要はありませんが、入社者が「この会社で成長していける」と感じられる環境を整えておくことは、採用活動そのものの質を高めることにもなります。
おわりに
福岡の製造業の採用環境は、確実に変化しています。大手企業の進出や給与水準の上昇に伴い、中堅・中小メーカーにとっての競争環境は以前より厳しくなっているのは事実です。
しかし、福岡で長く事業を営み、地域に根差してきた企業には、大手にはない強みがあります。その強みをきちんと言語化し、候補者に届く形で発信していくことができれば、採用競争のなかでも十分に戦っていけるはずです。
フレイズでは、福岡を中心に、製造業の中途採用支援に取り組んでいます。
採用要件の整理、求人設計、採用チャネルの選定、選考プロセスの改善まで、実務に即した形でお手伝いしています。
「採用活動を見直したいが、何から手をつけるべきかわからない」 「自社の魅力をどう候補者に伝えればいいのか整理したい」 「福岡での採用市場について、率直な意見を聞いてみたい」
そのようなお悩みがございましたら、ぜひお気軽にご相談ください。